独立へ向かうスコットランド

ポンドの大幅な下落を引き起こす可能性があるのでトレーダーとしても他人事ではないんだけど、 イギリスのEU離脱が目前に迫って、いよいよスコットランドがイギリスからの独立に向けて動きそうなんだよね。

2014年の住民投票で独立反対が55%だったけど、それはあくまでイギリスがEUから離脱するなんて思ってなかったからなんだよ。

2016年のブレグジット国民投票ではスコットランドは62%がEU残留を支持してるわけで、EUから離脱するならイギリスから独立してEUに加盟したいと考える人がいても不思議じゃない。

実際に2019年12月のイギリス総選挙前に実施された世論調査では、51%がスコットランドの独立に賛成していて、2014年の住民投票を逆転してる。

もちろんスコットランドだって簡単に独立出来るわけでもないし、万が一独立が実現したとしても、その後は茨の道が待ち受けている。

まず独立の是非を問う住民投票を実施するには英議会の承認が必要だと言われているけど、イギリスのボリス首相はこれを認めないと明言しているので、住民投票の実施自体がものすごく高いハードル。ちなみに2017年に住民投票の実施を要請された時も、英議会は却下している。

でもこれ実は、スコットランドの住民投票実施には英議会の承認が必要だと広く解釈されているだけで、裁判で争われた歴史はないんだよ。

スコットランド行政府のラッセル憲法相は裁判で争う可能性を匂わせてるし、スコットランド自治政府首相でSNP党首のスタージョンのアドバイザーだったプリングルも、ボリス政権が認めなくても法的な手続きに則って進める合理的なケースはあり得ると言ってる。

スタージョン自身は英議会の承認なく住民投票は実施しないと言われているけど、何度も英議会に拒否されたら強行する可能性もゼロではない。

そして万が一独立を勝ち取っても、その後がもう大変すぎて、通貨をどうするかや北海油田関連を含む英政府との資産と負債の分割、EUへの加盟等々、簡単には解決しない問題が山積みなんだ。はっきり言って全て解決するまで相当な時間がかかる。

通貨問題だけを挙げても、スコットランドはイギリスと通貨同盟を結んで正式にポンドを使いたいけれど、イギリスの主要政党はそれを認めない立場。となると残りは英政府の承認なく一方的にポンドを法定通貨化するか、独自通貨を導入するしかない。

もし承認なくポンドを法定通貨化しても色々と問題があるけれど、特にスコットランドの銀行が流動性危機に陥ったとしてもスコットランド政府がポンド建ての流動性を供給する術がないので、本店をロンドンに移してBOEの監督下に入ると表明している金融機関も多い。

独自通貨の導入と中央銀行の創設にしても、実行そのものはそこまで難しくないとしても、国内外から信任を得るための外貨準備に数百億ポンドの積み増しが必要と言われているし、そう簡単ではない。

ちなみに今のところは通貨同盟をイギリスに要求して、その間は一方的にポンドを使うのが一般的に可能性が高いと見られているようだけど、JPモルガンなんかは独自通貨導入と中央銀行創設をメインシナリオとしているみたい。

通貨問題だけでも簡単には収まりそうにないのに、それ以上に時間のかかりそうな北海油田を含む資産と負債の分割問題やEU加盟問題もあるし、スコットランドには核配備可能な原子力潜水艦の基地があったりして安全保障上の問題もある。

ではなぜここまで問題が山積みなのにスコットランドは独立に向かうのか。それはもうスコットランドナショナリズムの感情に他ならない。

特にスコットランド自治政府首相でSNPの党首でもあるスタージョンは、筋金入りの社会主義ナショナリストなんだ。彼女の原点はサッチャーの新自由主義でスコットランドに失業者が溢れた30年以上前にあり、それ以来スコットランドの独立を叫び続けている。それこそ独立こそが正義であり、その後の問題なんて深く考えていないかもしれない。

現時点でスタージョンは住民投票を2020年後半に目指すと言われていたり、あるいは2021年5月にスコットランド議会が解散するので、そこでSNPが過半数を獲得すれば住民投票実施に動くとも言われている。

いずれにせよスコットランド独立によってイギリスの国力低下及びポンドの大幅な下落は避けられそうにないので、トレーダーとして今後も目が離せない。